信州の名工受賞 堀 達矢

レンズを磨き上げることに携わりたい 自分にとってエビデントが最良の選択でした

2020年信州の名工受賞 堀 達矢

ほり たつや/1992年オリンパス(株)入社(現(株)エビデント長野)、辰野工場レンズ職場配属。
製造の経験を活かし2006年生産技術部へ異動。各製品の基準レンズに携わる。
2020年11月、高精度レンズ研磨工の第一人者として高難度の製造業務に従事してきたことが評価され「令和2年度 信州の名工」を受賞。
趣味は地元仲間とお酒を飲むこと。名工受賞時、仲間から刻印の入ったウィスキーとビールジョッキが贈られた。

堀 達矢


カメラレンズの生産からキャリアをスタートさせたという堀達矢さん。光学レンズ工としてエビデントにたどり着くまでにどのような道のりがあったのか伺ってみました。

こんなスピードではとても間に合わない、ひたすらレンズを磨いて磨いて・・・

入社したのは1992年。辰野工場のレンズ職場に配属となり、カメラレンズの生産担当として20代のほとんどを日本と主幹工場のあった中国・深センを行ったり来たりして過ごしました。当時はまだデジタルカメラが出始めたばかり。短時間で多量に生産する製品だけに重圧も相当なものでした。

27歳のときに、初めての転勤を経験し、地元の辰野町を離れ坂城町の工場へ。そこで待っていたのは大口径超望遠レンズの新製品「OLYMPUS ZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8」という大きなプロジェクトでした。それまで既存の交換レンズのみを生産していた工場が、急に新製品の生産に挑戦することになったのだから大変です。当時、カメラレンズは、シート研磨といって、発砲ポリウレタンシートにレンズを貼り付け、自動研磨機によって生産を行っていました。しかし、超望遠レンズは大きすぎて設備的にこの方法がとれません。そこで仕方なく人の手の感覚で低速低圧で磨き上げるピッチ研磨という方法をとることにしたのですが、これはシート研磨の4倍も生産に時間がかかり、経験者もほぼいませんでした。

すぐにメンバーへの教育を開始し、目標に向けて走り出しました。しかし、最初は良品を一つ作るだけで一苦労。と言うのも、材料が柔らかく特殊なため、一晩かけてやっと磨き上げたのに、洗浄液で拭いた途端に傷が入ってしまうなんてことがよくあったからです。こんなスピードではとても間に合わないと、メンバー全員でひたすらレンズを磨いて磨いて・・・気づいたら徹夜していたこともありました。もちろん、ほかの製品と並行しながらの生産だったので、自分含めメンバーの一部が中国出張で不在になることも。そうなると残りのメンバーで対応しなければならず、毎月の目標をクリアするのが本当に辛かった。なかなか家に帰ることができない日々が1年半続き、プライベートではまだ幼かったわが子に人見知りされながらも、チームで団結し何とか乗り越えていきました。

自分が作れても、製造で作れなければ意味がない

苦楽をともにできる仲間に恵まれ充実した日々でしたが、このカメラレンズ生産の経験から、いつしか自分の中にレンズを「もっと丹精込めて作りたい」という気持ちが湧きました。そしてその思いが強く熱くなっていた32歳のとき、日ごろから仕事で関わりのあった生産技術部の先輩から「製造を応援する仕事はどうか」と声をかけていただき、社内のチャレンジシステムを経て異動しました。

生産技術部の仕事は、開発と製造の現場を繋ぐこと。その中で開発から「この精度のレンズ、作れますか?」と相談されることがよくありました。工場でレンズを磨いてきた経験から、つい自分が作れるかどうかを言いたくなる。でも自分が作れても、量産のときに製造で作れなければ意味がありません。自分を見つめ直し、製造が困らないよう開発に歩み寄ってもらうこと、そしてものづくり全体のことを考えて仕事をするという大切なことを学びました。

また、各製品のレンズを評価するための測定レンズにも携わっていたので、それまでカメラのレンズの中に閉じていた自分の知識や経験を、内視鏡、顕微鏡、そして特別注文品の高精度レンズにまでどんどん広げていくこともできました。光らないものを光らせること。自分の狙った精度にもっていくこと。目に見えないものを見られるようにすること。レンズは本当に楽しくて、やっているうちに、気づけば周りから「レンズのことなら何でも知っている」と言ってもらえるまでになりました。
 

事業の分社化が決まったとき、私はもとの会社に残る選択肢もありました。でも「もうすぐ自分は50歳。あと10年仕事するならレンズに関わる面白い仕事ができる方へ」と、迷わず顕微鏡と工業用内視鏡を継承したエビデントへ。これからもずっとレンズを磨き上げたい私にとっては、エビデントが最良の選択でした。
 

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